はじめに

    桜会とは、一般財団法人日本エネルギー経済研究所の職員とOBによって構成され、会員間の親睦を深めると共に、会員相互のネットワークの強化拡充や情報交換の場の提供等を通じ、会員の知見を有機的に活用して、当研究所の健全なる発展と、国内外でのブランド力の向上に寄与することを目的とするものであります。
    桜会の歴史は古く、日本エネルギー経済研究所創立10周年を迎えた1976年に、当時企業から派遣されていた出向・派遣研究員のOBを対象に、相互間の親睦を深めることを目的に設立されました。当時のエネ研は虎ノ門櫻川町の第10森ビルにオフィスを構え、所長以下総勢50名弱の小さな研究所でしたが、オフィス近くに有名な愛宕山があり、春になると全山、桜が見事な花を咲かせ、所員も花見を大いに楽しんだことに由来しています。
    現在の桜会は、従来の「企業からの派遣・出向OBのみを対象とする組織」を発展的に解消し、新たに「エネ研の研究員、スタッフの現役・OBをも含めたオールエネ研の組織」とすることにし、2008年にスタートいたしました。

年度初めのご挨拶








































 

 桜会の名称の由来となりました芝愛宕山の桜も開花し、街中ではお揃いの制服を着た新入生や真新しいビジネススーツ姿の新社会人の姿を見掛ける季節となりました。わが国では教育機関の学校年度や政府機関の会計年度が4月に始まり、会社やその他民間組織の多くも事業年度の開始月を4月としており、新年度を迎えて新たな気持ちで課題や目標に取り組まれている方も多いと存じます。

 一方、新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けは昨年5月、季節性インフルエンザと同じ5類となり行動制限が撤廃されるとともに、本年4月には医療体制も通常の対応に移行しており、本格的なポストコロナ期の幕開けを迎えています。また、日経平均株価の史上最高値の更新や日銀のマイナス金利政策の解除があり、賃金と物価の好循環の兆しも見られるため、「失われた30年」からの転機の可能性が高まっています。この機運を生かすためにも、ウイズコロナ期の在宅勤務やビデオ会議技術の利用等の経験や取組みの成果を生かした新しい行動様式や働き方の実践が重要になっています。

 コロナ禍対策に世界各国が注力していた2022年2月、ロシアはウクライナに侵攻し、欧州向けパイプラインガス輸出の大幅削減というガス戦争を仕掛けてきました。そのため、全世界を巻き込む天然ガス・LNG危機が生じましたが、西側諸国の一致した需給両面での取組みに加えて記録的な暖冬があり、未曽有の水準に高騰した価格も現在では侵攻前の水準に戻っています。しかし、ロシアが旧ソ連邦時代から建設してきた欧州向けガス生産・輸出インフラの大半が稼動を停止したため、供給余力が失われており、天然ガス・LNG危機の再発リスクは残されています。

 さらに2023年10月にイスラエル・ハマス戦争が勃発し、イランの支援を受けたイエメンのフーシ派による紅海入口での商船攻撃が始まったため、周辺海域の航行リスクが高まっています。現時点では、喜望峰経由の輸送ルートへの変更等によりエネルギー流通面での大きな障害は生じていませんが、不安定な中東の地政学的リスクが顕在化しています。また、アジアでは台湾海峡や南シナ海等での緊張が高まっており、エネルギー供給の安全保障がより重要な課題となっています。

 従って、第7次エネルギー基本計画の策定に際しては、昨年12月のCOP28で合意された「2035年温室効果ガス排出量の60%削減(2019年比)」の達成に向けた気候変動対策の強化に加え、新しい局面を迎えている地政学的リスクへの対応が喫緊の課題となっており、問題点の整理や対応策の検討がより難しくなっています。そのため、日本エネルギー経済研究所の蓄積された研究成果を踏まえた知見や見識への期待が高まっており、調査・研究活動の更なる充実、強化に向けた皆様の一層のご支援、ご協力を宜しくお願い致します。

 なお、今年も秋に第49回目となります桜会総会と懇親会の開催を予定しており、これまでと同様に多数の皆様にお集まりいただき、対面での意見交換や歓談を通じて旧交を温めるとともに、新たなネットワークを築く機会としていただければ幸いと存じております。


 

2024年4月

大先 一正