要旨

石炭価格低迷下の豪州石炭会社の対応策

国際協力プロジェクト部 石炭調査グループ 主任研究員 山本典保

電力業界の規制緩和やアジアの経済危機は、エネルギー需給動向に影響を及ぼした。その結果、石炭の需給緩和感が広がり、石炭の指標価格は過去4年間連続して低下した(1996年40.36USドル/トンが2000年28.75USドル/トンに)。石炭の需要家側は、需要の見直しや燃料調達方法の変更を進めている。
それら石炭の需要側の変貌に対して、生産者側も変貌を遂げてきた。 石炭業界は、生産コストの削減に取り組んだ。即ち、人員合理化(45%減のケースもあり)、鉄道料金低減、技術開発(重機の大型化等)が行われた。その結果、一般炭の平均FOBキャッシュコストはUSドルベースで低下傾向が見られる。
しかしながらコストダウン効果は、引き続く石炭価格の低下に吸収されている。現在の石炭価格では一部の一般炭炭鉱は利益があるものの、利益のない炭鉱が多いと見られる。 それに対して石炭業界は次のような対応をとっている。
@ まず生産コストの高い炭鉱は閉山した。
A 次に投資の抑制が行なわれている。1998年以降、一般炭の新規開発投資は、意思決定されていない。更に更新投資も延期している炭鉱がある。
B さらに炭鉱の所有の再編と集中が行われつつある。石油メジャーズ等は、石炭事業から撤退する意向を示している。一方で、石炭業界に残る会社、更に事業を拡大する会社もある。残る会社は、BHP, Rio Tinto, Glencore, Billiton, MIM等である。それらは、一地域に複数鉱区を有する等石炭事業にシナジー効果があるか、石炭生産に関する技術や労務管理等の石炭固有の文化を有している。
豪州生産者側は、今後もコストダウンと所有の集中による更なる合理化を進めるだろう。しかし、1997年から1999年にかけてすでにかなりの部分でコストダウンは達成されており、過去3年間を上回る更なるコストダウンの余地があるとは考えがたい。
単位当りのコストダウンは、いずれ採掘条件の悪化(深部化、剥土量増加、遠隔地化等)に相殺される。仮に、石炭価格が今後も低迷するとしたら、豪州石炭業界は、価格低下をコストダウンにより吸収することは厳しいと考えられる。
一方で、アジアの石炭需要は2010年に1995年比41%の伸びが想定されている。それらの需要を長期的安定的に満たすためには、炭鉱の維持及び新規開発、即ち投資が必要である。そのためには投資を合理化ならしめる石炭価格が必要である。