【研究の目的】
カリフォルニア電力危機を受け、その他の電力自由化地域との対比が注目を集めている。その中で成功例とされる米国のPJM ISO、欧州のNord Poolについて全体の概要を整理した。これら地域は、卸電力取引及び送電線の効率的運用に関し、特徴的な制度を採用しているが、まだまだわが国において全体像が十分認識されているとは言い難い状況にある。
【主要な結論】
1. PJM ISO
PJM ISOとは、Pennsylvania、New Jersey、Marylandの3州を中心とした米国北東部に位置する5州・1地域からなる北米最大の電力市場における送電線の運用・卸電力市場の管理等を行う組織である。古くは1927年の電力プール創設以来の卸電力取引に関する経験を有する。その特徴は、(1)小売事業者(LSE、負荷供給事業体)に発電設備容量の事前確保義務や緊急時対応等、信頼度維持に関し重い責任を課し、一方でISOがその信頼度維持に関して強い権限を有していること、(2)混雑管理の手法として地点別限界費用方式(LMP)を採用し、複雑ではあるが効率的・公平な卸電力市場管理を行っていること、(3)電力調達方法は相対取引・自己供給が8割を占め、スポット取引依存率が小さいこと、等である。
2. Nord Pool
Nord Poolは、北欧4ヶ国(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク)を跨る取引を扱う電力取引所であり、主に各国送電会社を基準としたゾーン間の混雑管理とスポット価格形成を業務とする。Nord Pool自体は1993年にノルウェーに電力取引所が開設されたことに始まり、1996年スウェーデンと共通の取引所として改編された後、1998年6月にフィンランド、1997年7月にデンマーク西部地域、2000年10月にデンマーク東部地域が加入した。システムとしては、カリフォルニアのモデルとなったこともあり、非常にカリフォルニアPXと類似しているが、十分な送電線の空き容量等に支えられ、地域の卸電力価格指標としての評価も高い。
3. まとめ
PJMとNord Poolは全く異なったシステムを採用しており、わが国の制度設計を考える上でも参考になる特徴を有している。PJMは信頼度維持と効率的なエネルギー市場を主要な目的として制度が構築されており結果的に非常に複雑なシステムとなっている。一方Nord Poolは、各国・地域間の卸電力取引の調整を主眼として制度設計が行われており、地域の価格指標としての役割を果たしている。このように各システムともにメリット、デメリットがあること、また小売は各州もしくは国により制度・自由化進展度が異なっており、全体の自由化モデルとして捉えるべきではないことから、「上手く機能している」からといって、わが国に単純に当てはめて議論を行うべきではない。むしろ制度設計の目的に照らし合わせ、あくまでも「部品」として捉えることが重要であろう。
以上