近年、特に大都市圏において、ディーゼル自動車(軽油自動車)から排出される粒子状物質(PM)を減らす対策の必要性が叫ばれている。その対策として、軽油自動車を低公害な車(ハイブリッド自動車、圧縮天然ガス自動車(CNG自動車)、液化石油ガス自動車(LPG自動車)、電気自動車等)に置き替える働きかけが行われてきたが、それぞれの車には長所短所があり、期待通りには普及が進んでいない。そのため最近では、軽油自動車にPM除去装置(DPF)を取付けることを誘導するような政策措置も検討されている。
CNG自動車は、PM問題等の大気汚染問題と石油代替というエネルギー政策目標を同時に解決するオプションの1つである。しかし、現状では車輌価格が高く、燃料供給インフラの整備も進んでいない等多くの問題を抱えている。そこで本報告では、このCNG自動車、中でも今後普及が期待されるCNG貨物自動車に着目し、関係する各事業者における問題点を明らかにするとともに、将来的な普及の可能性を探りながら、導入に関する課題抽出を試みた。
* 東京都23区、多摩東・中央部における積載量2トンの普通貨物自動車(トラック)を、分析対象とした。
* エコ・ステーション;CNGやLPG等の低公害な自動車用燃料を供給するスタンド。現時点では、その殆どがガソリン・軽油スタンドに併設している。
1.今回、低公害な車の普及が進まないことに関して、多くの特徴的な課題を有しているCNG貨物自動車を例に、その問題の構造を探ってみた。CNG貨物自動車普及上の課題としては、(1)高い車両価格とエコ・ステーションの不足(トラックユーザー)、(2)CNGトラック普及台数の少なさ(エコ・ステーション)、そして(3)CNGトラック生産台数の少なさ(トラックメーカー)があげられる。
CNGトラック普及には、(1)CNGトラックと軽油トラックの価格差を1.1倍にまで引き下げる(現状1.6倍)、(2)半径2〜3km圏内に少なくとも1ヶ所のエコ・ステーションが分布している(現在都内に15ヶ所)、(3)1エコ・ステーションあたり116台のユーザーが存在する(現状約20台)、そして(4)年間生産台数が5,000台程度(現在約700台)という条件を、ほぼ同時に実現する必要がある。
2.東京都の環境規制強化によって、既存軽油自動車の低公害車化の必要性が高まり、その選択肢の1つとしてCNGトラックの普及が考えられる。今回想定した東京都下においてCNGトラックが普及するためには、CNGスタンドへ燃料充填に行くのに使用する燃料を5%まで認めるとすると、エコ・ステーションの設置数は少なくとも75ヶ所必要となる。CNG自動車の普及台数の少なさから、エコ・ステーション設置数の拡大には、当面の間は行政による資金的助成が必要となる。しかし、エコ・ステーション設置数の拡大とともにCNG自動車の普及に弾みがつき、更に量産効果による生産コストの低減をもたらす。結果として、東京都下でのCNGトラックは、現在の約700台から2015年前後には約40,000台が普及すると見込まれる。
3.一方で、CNGトラックの普及拡大は、エコ・ステーションでのガス供給能力の制約が現れるため充填設備の能力増強が必要となる。選択肢としては、(1)75ヶ所の数のままで、順次各ステーションを8台同時充填可能な大型ステーションへと置換える。(2)75ヶ所に加え、大型ステーションを新規に追加設置していく、(3)現行規模のエコ・ステーション数を更に拡大するの3通りが考えられる。しかし、(1)(2)を実行するには、数多くのトラックを収容できる施設規模が必要であり、また(3)では、引き続き行政からの資金的支援を受ける必要がある、等の課題が残る。
4.PM対策としてのCNG自動車の普及を検討したが、普及には相当なコストがかかるということが明らかになった。CNG車を含む低公害な車の普及、ロードプライシング制度、道路インフラ整備による交通量制御等、どの手段を採用するにしてもかなりのコストがかかる。しかし、PM対策は行わねばならず、「環境確保には、コストがかかる」ということをもっと国民に訴え、国民納得の上でこのコストを自発的に分担する社会へ国民意識を高めていく必要がある。