LPガスの需給動向と価格(CP)制度について |
第二研究部 石油グループ 主任研究員 井田秀人 |
LPガスは、Liquefied Petroleum Gas(液化石油ガス)の略称で、プロパン(C3H8)とブタン(C4H10)の総称であり、採掘された石油・天然ガスの双方から産出される。環境負荷が相対的に低く、クリーンエネルギーとして位置付けられており、家庭業務用・自動車用等様々な分野で利用されてきた。沿岸部の主要地域に輸入基地が、内陸部には二次基地・充填所が設置され、都市部から山間僻地に至るまで供給網が整備されている。家庭業務用には主にプロパンが、工業用・自動車用には主にブタンが使用されており、ローリー・シリンダー等により、幅広く供給可能なエネルギーである。
世界のLPガスの生産量は約1億93百万トン、うち北米が30%、年間約59百万トンを生産している。中東は年間約35百万トン、世界の18%であるが、生産量より消費量が大幅に少なく、域外向けの最大供給を行っている。北米では域内での生産量と消費量がほぼ均衡しているが、日本を含むアジアは年間約31百万トン、世界の16%であり、主に中東からの供給を受けることで需給のバランスを保っている。ただ、世界の成長センターであるアジアの消費量は今後大幅に増加し、域外への供給依存度が更に上昇する見通しであることから、中東の供給可能量から見ると、アジアでは中東域外からの供給対応を迫られることが予想される。
LPガスの国際貿易市場をスエズ以東とスエズ以西に分けると、冷凍船貿易の約6割がスエズ以東のアジア市場で行われており、うち日本はスエズ以東全体の約3割を占めている。1999年にはアジア経済危機の影響が薄れ、中国・インド等の需要が再び急増したことにより、スエズ以東の需給が逼迫した。2000年から向こう3〜4年間は、スエズ以東の需給は引き続きタイトに推移し、LPガス価格が高騰或いは乱高下することが予想される。一方、LPガス価格の高騰に伴い、新規或いは増産プロジェクトが、2003年以降、急速に立ち上がり、2003年から2005年までに、年間約7百万トン〜25百万トンの増産が見込まれている。これらが実現すれば、2003年〜2004年には、現下のマクロ的な需給タイト状況は緩和される見通しである。ただ、国際需給に影響を及ぼす要因である中国・インド等アジアの需要動向と供給開発プロジェクトの進捗状況については、今後も注視する必要がある。
我が国のLPガスは、一次エネルギー供給の約5%を占めており、総需要量は年間約19百万トンである。民生用需要の割合が6割強を占め、うち家庭用は年間約5.3約百万トンである。一方、供給量は、海外からの輸入が年間約14.5百万トン、国内生産が年間約4.5百万トンで、約7.5割を輸入に依存している。2004年には輸入比率が約7.7割と更に高まる見通しである。輸入先は中東が約82%、なかでもサウジアラビアが約43%で中東全体の約半分を占め、中東依存度、サウジアラビア依存度が高い。
LPガス価格については、1994年にサウジアラムコ(サウジアラビア国営石油会社)がCP(Contract Price、サウジアラビア契約FOB価格)の通告価格制を導入して以来、価格の決定方式が不透明な状況にあり、2001年1月までで見ると、原油価格比で約1.4倍の割高となっている。CP価格はサウジアラムコ独自の基準により定められており、原油価格とのリンケージの要因が薄いことから、競合燃料と比べても独歩高な状態にあるが、今後もアジアの指標として継続される可能性が高い。従って、今後も引き続きLPガス市場の流動性・透明性の向上を図ることが重要となる。そのためには、分断化された状態にある欧米市場とのリンケージを高めることによりアジア市場の需給メカニズム機能を活性化し、CP決定の不透明性と市場の乖離をチェックする裁定機能を向上させることと、スエズ以西からスエズ以東への貿易の流れを拡大することが鍵となる。具体的には、産ガス国との現行CPリンクの売買契約を他の価格指標による売買契約に変更する交渉を行う、或いは供給地の多様化の中でCPよりも有利な条件の契約への切替を図り、市場圧力を促進するなどの方策が必要である。更に、日本の供給の8〜9割を占めるCPリンクの長期契約の比率を削減し、スポット取引を拡大することにより、CP価格への交渉力を持つことも重要である。
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