京都メカニズムと石炭利用拡大の可能性1


(財)日本エネルギー経済研究所  工藤 拓毅2

 地球温暖化防止の為に現在検討されている京都議定書では、先進各国の化石燃料由来の二酸化炭素を始めとする温室効果ガスの量的削減目標を規定している一方で、その対策措置を効率的に実施するための柔軟性措置である京都メカニズム(排出権取引3、共同実施4、クリーン開発メカニズム5)の導入が、あわせて議論されている。京都メカニズムは、市場取引を通してより経済効率的な対策オプションを引き出すものであり、国内における削減コストが高い国、ひいては世界全体での対策費用を最小限に止めることが期待されている。

 石炭は、化石燃料の中で炭素リッチな燃料であり、温暖化問題の解決にあたってはその利用が制限される可能性がある。しかし、今後も経済成長が見込まれるアジア地域では、その供給が必要不可欠な資源であり、また日本の様なエネルギー資源に乏しい国にとって、電源のベストミックスを含めたエネルギー源の多様化は、エネルギー政策上重要な課題であり、環境問題解決の為だけに石炭利用を放棄することはできない。そのため、石炭を利用しつつ環境負荷をも低減するような方策の検討が必要になる。

京都メカニズムは、こういったエネルギー供給と環境問題の同時解決に貢献する可能性を有している。クリーン開発メカニズムを利用することで、より効率的な石炭利用技術を途上国へ移転することもでき、また先進国も途上国での効率的な石炭利用や他の温室効果ガス削減事業を通して温室効果ガス削減を行い、その削減クレジットを国内での石炭利用に充当して、トータルでの問題解決行動を実現することも可能である。今後は、どの様な石炭利用と京都メカニズムの同時活用が可能な事業があるか、またどういった運用上の制度が必要か、その具体的な検討が求められる。



1.太平洋エネルギー協力会議(SPEC)2001(2001年2月20日)発表用レポート、This paper prepared for Symposium on Pacific Energy Cooperation -SPEC 2001 (Feb. 20, 2001, Tokyo, Japan)
2.第2研究部環境グループグループマネージャー、Group Manager, Environment Group
3.emissions trading (ET)、日本政府による公式呼称としては「排出量取引」が使われる
4.joint implementation (JI)
5.clean development mechanism (CDM)