「排出権取引について」

(所内研究会、MITエネルギー・環境政策センター所長、デニー・エラーマン氏)
常務理事  藤 目  和 哉

 2001年1月10日(火)午前10時~12時、エネ研大会議室で、マサチューセッツ工科大学(MIT)エネルギー・環境政策センター所長(Executive Director of Center for Energy and Environment Policy Research, Massachusetts Institute of Technology, CEPPR)のデニー・エラーマン(A. Denny Ellerman)氏の講演と質疑応答が行われたが、これはその紹介である。
 エラーンマン氏は、国際的に知られた「排出権取引」の権威である。たまたま2000年11月に筆者がMITのCEEPRを訪問し、氏が訪日の予定があることを聞き、エネ研での講演(セミナー)を約束してくださったことから、この所内研究会が成立した。所外からも大阪大学の西條先生、神戸商科大学の新沢先生、IGES(地球環境戦略研究機関)の松尾主席研究員も出席された。坂本理事長も出席され、エネ研本部、アジア太平洋エネルギー研究センター(横堀所長)から研究員が約30名出席し、久しぶりに大会議室は満席で熱気に包まれた。環境政策の経済的手段としていかに「排出権取引」が注目されているかがわかる。
 エラーマン氏は、長い期間アメリカの石炭産業研究を中心としたエネルギー経済の専門家であった。米国議会で酸性雨プログラムが議論されていた頃、米国石炭協会の副会長をされていた。その後、いくつかのシンクタンクを経て、MITのスローンビジネススクール(Sloan School of Management)の専任講師をされ、ジョスコー教授の後、CEEPRの所長になられた。
  講演(セミナー)はパワーポイントによるプレゼンテーションの形で行われた。パワーポイントの20枚のシートは1~20のページを付けこの報告の最後に添付するので参照されたい。
 承知のごとく、排出権取引は環境政策の有力な手段として、カナダの経済学者トロント大学教授ディルズ氏(Dales. J. H.)により考えられたもので、それから30年も経つ。実際に政策として運用され成功したのは米国の酸性雨プログラムについて発電所から排出されるSO2についての市場である。それが始まったのも1995年からでごく最近のことである。それが国際的な排出権取引としてCO2を中心とした温室効果ガスについて、1997年12月に採択された「京都議定書」に各国の目標達成の補完策(supplemental)として導入指針が織り込められたものである。
 SO2排出はローカルな環境問題であるのに対し、CO2等温室効果ガス排出はグローバルな地球環境問題であり、その排出抑制策としての排出権取引の仕組みも相当異なったものである。最近注目されている同じ経済的手段である環境(炭素)税との有効性比較において、エラーマン氏ははっきり「排出権取引」の優位性を結論付けている。