要旨

自動車燃料油に関する欧州の品質強化と石油産業の対応
総合研究部 石油グループ研 究 員 伊藤 孝司
総合研究部 ガスグループ主任研究員 曽我 正美

ボタン 研究の目的

 本報告は、欧州に新規に導入される自動車排出ガスと燃料品質規制の紹介、および欧州石油・自動車産業の新規規制対応と石油産業の影響等を考察する。

ボタン 主な要旨
 欧州の新規自動車排出ガス・燃料品質規制は、2000,2005年の2段階で強化される。
a)
 
欧州自動車業界の対応
 小型車と大型ディーゼル車で排気ガス対策が異なり、2000年の小型車対策は、高圧燃料噴射装置などの既存技術改良で達成。2005年対策は、 厳しいNOx基準のためDeNOx触媒の採用が必要となる。
  大型車の2000年対策は、既存技術で辛うじてクリアできる。2005年規制への対策は、特にNOxに関して対策を施さなければ規制値のクリアは不可能と考えられ、有望な方法はUrea-SCRである。
b) 欧州石油業界の対応
 2000年燃料品質規制は、現行生産品質と大差なくインパクトは少ない。しかし、2005年規制値として決定したガソリン・軽油の硫黄分50ppm以下とガソリンの芳香族分35 vol %以下は厳しく、低硫黄原油へのシフトあるいは脱硫設備等の新・増設で対応しなければならない。低硫黄の原油シフトによる50ppm軽油生産対応可能性は、国別 ・製油所別に原油シフト可能性に差があり、特に地中海沿岸国と中東産油国の資本が入った製油所は限界がある。また、北海原油の生産量 により、2005年硫黄分規制を処理原油のシフトによってのみ解決することは不可能であり、脱硫設備の新・増設による対応が必要になる。
 2005年硫黄分規制は、製油所の処理原油・脱硫設備能力により対策が異なるが、相当数の製油所は設備建設を行わなければならない。ただし、欧州は軽油の色相問題がないことより脱硫装置投資の負担を大きく減らす役割を果 たす。しかし、2005年の燃料品質規制には未決定項目があり、セタン指数強化が行われれば精製設備構成や処理原油より達成困難が予想される。
c) 新規規制への対応コスト
  2000年、2005年両品質規制値を満たすためのガソリン投資額は145億ドルであり、1.9セントになる。一方、軽油は85億ドルの投資で、1.0セントとなる。また、低硫黄化のみの分析を行ったところ、軽油硫黄分低減は、350ppmから200ppmまでは、主に脱硫設備で対応できコスト上昇は少ないが、50ppmまで低減した場合は、原油硫黄分、軽油留分の変更が必要になりコストの上昇幅が大きいことも分かる。
  自動車対策による追加的費用は、2000年規制はガソリン車一台で286〜385ドル、軽油車一台当りは462〜616ドルと推定され、燃料サイドコストとあわせ 、車1台あたりの生涯コストを試算すると、2000年規制で消費者が負担するのは、ガソリンが486〜585ドル/車一台、軽油は508〜662ドル/車一台である。