石炭価格が鉱山開発投資に及ぼす影響
国際協力プロジェクト部 副部長
石炭調査グループ マネージャー 三室戸 義光

 石炭価格と石炭鉱山開発投資の関係について、豪州および米国の過去20〜30年間のデータを中心に分析を行った。

  石炭鉱山開発への投資は石炭価格におおよそリンクするが、投資の原資となる企業の利益によって左右される傾向がみられた。その利益を確保するためには企業の生産コストの削減(=生産性の向上)が不可欠であることから、生産性の向上が投資への大きな要素となることが明らかとなった。また開発投資が低迷していても、米国および豪州の石炭生産は堅調な伸びを見せているが、生産性の向上によって生産能力を増加させていることも明らかとなった。すなわち生産性の向上が、鉱山開発投資に大きな影響を与えていると言える。



 これらの分析により得られた知見に基づいて、今後の豪州の投資計画について検討を行った。

 豪州における今後10年から15年先の開発投資動向の予測について、生産性および生産の各伸び率を比較することにより推定を試みると、生産性の伸び率(2.9%)が生産の伸び率(1.7%)を上回る結果となった。したがって、今後の開発投資は供給不足を補うような性急なものとはならず、石炭価格が上昇しなくても市場に参入可能な競争力の高い鉱山開発に限定されてくると思われる。

  具体的には既存の豪州主要石炭鉱山の拡張計画は5,700万トン/年の増産が可能であり、これは予測される2010年までの生産増分である約5,500万トン/年(石炭換算4,920万トン/年:IEA Coal Information 2000)にほぼ等しい量である。したがって、2010年までに新規参入のチャンスがあるのは資源(埋蔵炭量)の枯渇による減産、あるいは閉山による減量分に加えて、コスト競争力の乏しい石炭鉱山が市場から退場することにより不足する数量分である。また開発待機中の豪州主要石炭プロジェクトの生産能力合計は、約9,000万トン/年にも及んでいる。これらのプロジェクトの市場参加は、厳しい価格競争を引き起こす可能性があり、この様な状況においては生産性向上サイクル(本文、図2.3参照)が起こりやすく、その結果、石炭価格は長期的に低下する傾向が予測され、投資も既存鉱山の拡張(ブラウンフィールド)が中心となり、当面は新規開発鉱山(グリーンフィールド)の投資はより限られたものになると思われる。