エネルギー安全保障における石炭の役割

国際協力プロジェクト部  副部長
石炭調査グループマネジャー
三室戸義光
 石炭がエネルギー安全保障に大きな役割を果たしてきたことは、周知の事実であるが、資源量 、資源分布、供給、価格、貿易の面からエネルギー安全保障における石炭の役割について検証を行い、以下の知見を得た。
(1) 資源量:各化石燃料の確認可採埋蔵量(R)を化石燃料の生産量の合計値(TFEP:Total Fossil Energy Production=石炭、石油、天然ガスの生産量の合計値)にて除してみると、石炭のR/TFEPが61年、石油が18年、天然ガスが17年となる(2000年ベース)。石炭のR/P(生産量 )は石油の5.7倍もあるが、R/TFEPベースで比較すると3.4倍となる。石炭は埋蔵量 の面で優位性を持っていることには変わりないが、石炭の埋蔵量はR/Pの値に相当するほど大きなものではない。
(2) 資源分布(地域分散):石炭の分布特性が石油および天然ガスの分布特性を補完し、その結果 世界の一次エネルギーの分布をより均等化している、すなわち埋蔵量におけるエネルギーベストミックスを構成している。
(3) 供給(石油代替):1980年代には世界の一次エネルギーの生産が伸びたにも拘わらず、石油生産が落ち込んだ。そのような状況下で、石炭は石油生産の落ち込みをカバーして、なおかつ一次エネルギー供給の担い手として貢献した。石油代替による石炭需要の増大は、日本の電力分野において顕著に見られた。
(4) 価格(安定性):石炭の日本着CIF価格を他のエネルギーと比較してみると、同一の発熱量 では原油、LNGの価格よりも低廉、かつ安定的に推移している。原油価格とLNG価格は連動していると言えるが、1986年以降の石炭価格は原油価格との連動性に乏しい。石炭の低価格安定供給は原油、天然ガス等の価格上昇の抑制につながると思われる。
(5) 貿易(輸出比率):世界の石炭生産量に対する輸出量の割合は石油、天然ガスに比較して小さい。輸出量 の割合が少ないことは国内消費が大きいことであり、その大きな国内市場は小さな輸出市場の需給および価格の変動を緩和する機能を持つようになり、石炭はこの面 でも優位性を持っている。