ロシア石油・ガス産業の対アジア経営戦略
エネルギー動向分析室

研究員 小森 吾一

 ロシアの石油・ガス産業は原油・ガス価格の上昇および1998年8月の金融危機以降のルーブル安により、良好な業績を示している。現時点ではロシアの原油と天然ガスとも輸出先は主に欧州となっている。

  現在のロシアでは西シベリア・ウラル・ヴォルガ地域において原油・天然ガスの大部分が生産されている。一方、東シベリア・極東地域では未発見ながら膨大な量 の石油・天然ガスの埋蔵量は期待されている。1990年代に入ってから、中国を始めとする東アジア諸国ではロシアの主要輸出市場である欧州よりも石油・ガス需要の伸びが大きい。さらに、今後も東アジア諸国では欧州よりも大きな石油・ガス需要の伸びが見込まれている。
 
 現在、東シベリア・極東地域で生産された石油・天然ガスを今後の大きな需要増加が見込まれる東アジア諸国に輸出する複数のプロジェクトが計画・一部が実施に移されている。これはロシア石油企業およびガスプロムの新たな経営戦略として注目され、欧米メジャーも積極的に参加している。具体的なプロジェクトとしては、東シベリアから中国向けの石油およびガス輸出パイプライン建設、サハリン沖合での石油・ガス開発/輸出プロジェクトを挙げることができる。

 しかしながら、東シベリア・極東地域から東アジア諸国向けの石油・ガス輸出プロジェクトを実現させるためには、ロシア側にとって以下の課題がある。

(A) 外資を導入するための前提条件となるロシア連邦政府による投資・税関連の法律の整備とその確実な施行。
(B) 開発プロジェクト準備段階からのロシア連邦政府と産油・産ガス地の地方政府との協力。
(C) 競合する他の(ロシア以外の)東アジア諸国向けの石油・ガス輸出プロジェクトに対する競争力の確保。このためには「石油・天然ガスの安定供給の保証」と「価格競争力の確保」が重要な要素となる。